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冷凍の歴史

 冷凍・冷却技術は食品の保存、暑さ対策など、人の生活に不可欠であり、加熱技術とともに文明の基幹をなす技術である。人為的な製氷技術がなかった古代では、天然氷(雪)の利用、あるいは、素焼きの壺に水を入れ、気化熱で冷却したことが知られている。

 天然氷は中国では周代(AC1046年頃 – AC256年)の遺跡から凌陰(氷室)や冷蔵用の容器である氷鑑が多数発見されており、周代には広く普及していたことがうかがえる。また、現在の冷凍技術の原型とも言える素焼きの壺による冷却は古代からエジプト、インドで使用されている。  

 一方、国内では、『日本書紀』の仁徳天皇62年に、「額田大中彦皇子が、闘鶏(つげ=現在の奈良県天理市福住町)に猟された時、野中に盧叢のようなものを見つけ、闘鶏の稲置大山主命を呼んで問われたところ、『氷室といい、土を一丈ほど掘り下げ茅萩を敷き、氷をその上に置きその上を草で覆っておくと氷は夏になっても融けません。暑い月に酒にひたして飲用するものです』と答えた。皇子はその氷を持ち帰って天皇に献じられ、天皇は歓喜せられた。これ以後冬期に氷を貯蔵し春分に至って始めて之を散す」と氷室の発見から朝廷へ献氷するに至るまでの経緯が記載されている。1986年に長屋王(~729年)邸跡地から発掘された木簡には、闘鶏氷室の記載があり、氷室の形状、配送記録などが記載されている。

図 柘植氷室神社と再現された氷室

 平安時代には、枕草子、源氏物語の記載にも見られるように、毎年80tの氷が献納され、貴人たちの夏には欠かせないものになっていた。天然氷は幕末から明治初期の外国人移住区での食肉の保存用として需要が高まり、函館五稜郭の氷で最盛期を向える。その後、人工氷の普及により、天然氷は衰退するが、現在でも一部で製造されている。

 人為的に氷を最初につくったのは、スコットランドの化学者William Cullenといわれ、1756年にエーテルの入った容器を真空に引くことにより、周囲の水を凍らせる実験を行った。19世紀になるとイギリス在住のアメリカの発明家Jacob Perkinsをはじめ現在の冷凍サイクルと同等の構成要素で、多くの冷凍機が発明、製造されている。この間、フランスのカルノーが火の動力、および、この動力を発生させるに適した機関についての考察を発表し、熱力学の基礎を築いた。しかし、生前は正当な評価を得ることがなかった。

図 Jacob Perkins考案の冷凍機

 20世紀になると冷凍技術は飛躍的発展をなした。1930年にはアメリカの化学者Thomas Midgleyがフロンを発見し、冷凍技術が広く一般に普及した。食品の保存は、氷による冷却から食品そのものを冷凍する冷凍保存へと進展した。国内では1964年に開催された東京オリンピックの選手村で食材として冷凍食品が提供され、翌年の1965年には科学技術庁資源調査会によるコールドチェーン勧告がなされたこともあって、ホテル、レストランへの普及をへて一般家庭に広く普及した。一方、1902年にアメリカの発明家Willis Carrierによって冷却による湿度制御が発明され、冷凍技術が空気調和へと発展し、フロン冷媒の採用とともに産業用から民生用に広く普及した。

 しかし、フロンの優れた化学的特性から冷媒だけでなく洗浄剤、噴射剤、発泡剤など幅広く使用され、多量に大気へ放出されるようになった。大気中に放出されたフロンは成層圏で紫外線により分解し、オゾン層破壊物質である塩素の供給源になることが分かると塩素を含むフロンの生産が禁止されれた(モントリオール議定書)。また、塩素を含まないフロンいわゆる代替フロンも温室効果ガスとして大気への放出を規制された(京都議定書)。モントリオール議定書以来、環境対応の冷媒が研究されており、オゾン層破壊がなく、地球温暖化係数のきわめて小さいR1234yf等も発見されているが、設置用空気調和機に使用されるような沸点が-50℃前後の冷媒の発見はきわめて困難と考えられる。

 

1756 William Cullen(英):ジエチルエーテルの気化熱で、少量の氷を実験的に作成
1824 Nicolas Leonard Sadi Carnot(仏):「火の動力、および、この動力を発生させるに適した機関についての考察」を出版
1834 Jacob Perkins(米):ジエチルエーテル圧縮式製氷機を発明。J.Hagueが試作。
  J.C.A.Peltier(仏):ペルチェ効果発見
1844 John Gorrie(米):最初の開放型の空気サイクル冷凍機製造
1852 William Thomson(英)(ケルビン卿):「空気の流れを用いて建物の暖房、冷房を行う経済性について」発表
  William Thomson(英),James Prescott Joule(英):ジュール・トムソン効果発見
1856 James Harrison(豪):メチルチオエーテル圧縮式冷凍機製作
1859 Ferdinand Carré(仏):水-アンモニアの吸収式冷凍機発明
1873 D.Boyle(米):最初のアンモニア冷凍機を造る
1902 Willis Carrier(米):冷却による湿度制御の発明
1930 Thomas Midgley(米):R12を発見
1964 東京オリンピックの選手村で冷凍食品が利用される
1980 (日):ACインバータエアコン。DCインバータは1981年
1987 モントリオール議定書。CFC、HCFCの生産規制(HCFC規制は1992年コペンハーゲン改定)
1997 京都議定書。HFCの放出規制