オゾン層保護
オゾン層の現状
人的なオゾン破壊物質(Cl,Br)の排出により成層圏のオゾン減少し、1980年代になると南極上空においてオゾンホールが発生するようになり、1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択された。このモントリオール議定書は締約国会議毎に規制が強化されたが、順調にオゾン破壊物質の排出が抑制され、オゾンの減少は2007年ごろをピークに回復傾向にある。下図に気象庁が作成した1979年と2011年の南半球のオゾン分布を示す。
図 南半球のオゾン分布(気象庁ホームページより)
2011年でも南極上空に巨大なオゾンホールが観測され、1970年代以前の状態に戻るのは2050年以降になると予測されている。一部の環境関連のホームページには今後もオゾン層が減少する記載が見られるが、誤った知見である。地球環境は、科学的な解明と対応が同時進行される場合が多い。地球環境保全には常に最新の科学知見に基づいた情報発信が不可欠である。
オゾン層と役割
オゾンは殺菌や漂白に使用されるように、非常に強い酸化作用があり、0.1ppmを超えると人体へ悪影響をおよぼす猛毒の物質である。また、光化学スモッグの主成分であり地表に高濃度に存在することは望ましくないが、成層圏には地表20~30km をピークに高濃度のオゾン層が存在する。このオゾン層によって、太陽からの紫外線のうちUV-C(280 nm未満)のすべて、UV-B (315–280 nm) のほとんどが吸収される。UV-Cは細胞の染色体の破壊、UV-Bは皮膚がんの原因となり、オゾン層が地表の生態系を保護する役割を果たしている。また、UV-A、UB-Bの吸収により成層圏では温度が上昇する。
図 オゾン分布と役割(気象庁ホームページより)
オゾン層の形成と消滅
模式的なオゾンの生成と消滅を下図に示す。成層圏の酸素分子は波長240nm以下の紫外線により酸素原子に光解離する(反応J1)。解離した酸素原子は酸素分子と結合しオゾンが生成される(反応R1)。このときの反応熱は第3の分子(N2など)によりバランスが取られる。一方、生成されたオゾンは、波長320nm以下の紫外線により酸素分子と酸素原子に解離(反応J2)と酸素原子と反応し2個の酸素分子が生成(反応R2)により消滅する。ただし、反応J2でできた酸素原子は反応R1により直ちにオゾンを生成されるために、実際の消滅は反応R2となる。これらの反応はChapman機構と呼ばれ、地表25km付近で活発に起る。
図 Chapman理論によるオゾンの生成と消滅
オゾンの発生は自然界ではChapman機構のみであるが、消滅は成層圏の微量成分によっても生じる。下図は、一酸化窒素による消滅を模式的に示したものである。一酸化窒素とオゾンが反応し二酸化窒素と酸素分子が生成される(反応R3)。生成された二酸化窒素は酸素原子と反応し、一酸化窒素と酸素分子が生成される(反応R4)。結果として、一酸化窒素は変わらず、オゾンと酸素原子から2個の酸素分子を生成する反応となる。同様の反応は塩素原子、臭素原子によっても生じる。
図 一酸化窒素によるオゾン消失
一酸化窒素によるオゾン消失の反応はオゾン層の本格的な研究のきっかけとなったものである。1970年ごろに超音速旅客機の開発あるいは計画がなされ、成層圏を飛行する際に一酸化窒素が排出され、これがオゾンを大量に破壊する可能性が指摘され、米国でオゾン層の研究が開始された。超音速旅客機が比較的成層圏の低い高度を飛ぶことから、排出される一酸化窒素によるオゾンの破壊は小さいことがわかったが、成層圏の塩素原子が大量のオゾンを破壊することが明らかになった。一方、アメリカの大気化学者フランク・シャーウッド・ローランドとマリオ・モリーナは、地表で排出されたフロンガスが成層圏で塩素原子を解離しオゾンを破壊する危険性を発表し、フロンの排出禁止を訴えた。
オゾン層の保護
フロンによるオゾン層破壊は南極のオゾンホールの発生と航空機によるオゾンホール内の塩素濃度の観測が決定的な実証となり、反対意見は影を潜めフロン規制への合意がなされた。「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」の主な規制の変遷と規制物質のオゾン破壊係数を下表に示す。
表 モントリオール議定書の規制内容(先進国)
規制物質 |
モントリオール議定書 |
ロンドン改正 |
コペンハーゲン改正 |
---|---|---|---|
特性フロン1) | 1998年7月50%以下 | 2000年全廃 | 1996年全廃 |
その他CFCs | 2000年全廃 | 1996年全廃 | |
HCFCs | 2030年全廃3) | ||
特定ハロン2) | 1992年100%以下 | 2000年全廃 | 1994年全廃 |
HBFCs | 1996年全廃 | ||
四塩化炭素 | 2000年全廃 | 1996年全廃 | |
1,1,1トリクロロエタン | 2005年全廃 | 1996年全廃 |
2)特定ハロン:ハロン1211,1301,2402
3)2020年以降は補充用冷媒のみ
表 モントリオール議定書の主な規制物質とオゾン破壊係数
名称 | 化学式 | 大気寿命 | ODP1) | |
---|---|---|---|---|
(年) | 議定書 | WMO2)(2011) | ||
特定フロン(議定書付属書AグループⅠ) | ||||
CFC11 | CCl3F | 45 | 1.0 | 1.0 |
CFC12 | CCl2F2 | 100 | 1.0 | 0.82 |
CFC113 | CCl2FCClF2 | 85 | 0.8 | 0.85 |
CFC114 | CClF2CClF2 | 190 | 1.0 | 0.58 |
CFC115 | CClF2CF3 | 1020 | 0.6 | 0.57 |
特定ハロン(議定書付属書AグループⅡ) | ||||
ハロン1211 | CBrClF2 | 16 | 10 | 15.9 |
ハロン1301 | CBrF3 | 65 | 3 | 7.9 |
ハロン2401 | CBrF2CBrF2 | 20 | 6 | 13 |
四塩化炭素(議定書付属書BグループⅡ) | ||||
四塩化炭素 | CCl4 | 26 | 1.1 | 0.82 |
1,1,1-トリクロロエタン(議定書付属書BグループⅢ) | ||||
1,1,1-トリクロロエタン | CH3CCl3 | 5 | 0.1 | 0.16 |
HCFCs(議定書付属書BグループⅢ) | ||||
HCFC22 | CHClF2 | 11.9 | 0.055 | 0.004 |
HCFC123 | CHCl2CF3 | 1.3 | 0.02 | 0.01 |
HCFC141b | CH3CCl2F | 9.2 | 0.11 | 0.12 |
HCFC142b | CH3CClF2 | 17.2 | 0.065 | 0.06 |
HCFC225ca | CF3CF2CHCl2 | 1.9 | 0.025 | |
HCFC225cb | CClF2CF2CHClF | 5.9 | 0.033 |
2)WMO:World Meteorological Organization(世界気象機関)
採択時の規制内容は、オゾン破壊能力の高い5種類の特定フロン(CFC11,12,113,114,115)を1998年7月に半減以下、3種類の特定ハロン(ハロン1211,1301,2402)を1992年に100%以下という緩慢な規制であったが、ロンドン改定、コペンハーゲン改定によりすべてのオゾン破壊物質の全廃となった。オゾン破壊係数の小さいHCFCsを除き先進国では2005年に、開発途上国では2015年に全廃となった。また、HCFCsも2030年には開発途上国も全廃が義務付けられている。オゾン破壊モントリオール議定書の締約会議は現在も続けられているが、開発途上国のHCFCsの対策基金、オゾン層を破壊しない温室効果ガスであるHFCsの取り扱いが中心であり、当初の目的は達成したと思われる。
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