地球環境と冷凍

冷凍の役割と地球環境

 冷凍の基本は低温側から熱をくみ上げ高温側に排熱する技術であり、低温側を利用すれば、冷房、除湿、製氷、食品の冷凍等、高温側を利用すれば暖房、給湯、加熱等に利用でき、家庭、業務、運輸、産業分野で広く利用されている。 熱を低温側から高温側に移動させるためには必然的に熱媒体とエネルギが必要となる。冷凍技術が開発された当初は、熱媒体として亜硫酸ガス、アンモニア等の自然界に存在する揮発性の物質が使用されていたが、毒性、可燃性、あるいは腐食性といった設置場所の局所環境を悪化させる要因があり、無毒、不燃、無臭のフロンが発明されると、冷凍分野から空調分野へと急速に拡大した。また、フロンの優れた特性から「夢の化学物質」と呼ばれ、熱媒体だけでなく、洗浄、エアゾール、発泡剤として幅広く使用され、大量に大気に放出された。

 しかし、フロンの大気放出によるオゾン層破壊が指摘され、さらに地球温室効果ガスと認識されるようになると、地球環境破壊の象徴的な物質に挙げられた。オゾン層破壊に対しては、すでにオゾン層破壊のない物質HFCsに変更されているが、地球温暖化への課題が残っている。一方、冷凍サイクルを暖房あるいは給湯のような加熱機(ヒートポンプ)として利用する場合、再生可能エネルギに含められる大気熱を利用できるために、省エネルギや温暖化ガスの排出削減が可能であり、地球温暖化への対策技術の一つにも挙げられている。さらに、地球温暖化が進行した場合、熱中症を含め人体の健康維持のために冷房需要が増大し、継続的な冷却が可能な唯一の冷凍サイクルは必要不可欠な技術である。また、地球環境悪化の主要因である人口増加に対し、食料の安定供給を担うコールドチェーンの果たす役割はますます大きくなる。

フロンの種類

 フロンという呼称はもともと冷媒につけられた商標であったものが、登録が取り下げられた後、国内で一般化されたものである。このために、フロンの明確な定義はなく、炭化水素の水素の一部あるいは全てをハロゲン族(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)に置き換えられたハロカーボン類と基本的に同意語であるが、フッ素、塩素で置き換えたものを呼ぶ場合が多い。R13B1(CBrF3)のような臭素を含むものは、冷媒用途ではフロンと呼ばれるが、消火剤として用いられる場合はハロンと呼ばれる。

 炭化水素の水素をハロゲン族に置き換えることで、標準沸点の変更、可燃性の抑制ができる。標準沸点はフッ素以外の分子量が増加すると高くなり、燃焼反応の抑制効果はフッ素<塩素<臭素の順に高くなる。例としてメタンをフッ素、塩素で置き換えたメタン系フロンの特性を下図に示す。

図 メタン系フロン

 従来は、標準沸点、可燃性、毒性から目的に合ったものを選択していたが、塩素、臭素がオゾン層を破壊することが知られ、構成原子を表示するために、水素原子すべてを塩素、フッ素で置換したものをCFCs(Chlorofluorocarbons)、水素原子の一部を塩素、フッ素で置換したものをHCFCs(Hydrochlorofluorocarbons)、水素原子の一部をフッ素で置換したものをHFCs(Hydrofluorocarbons)と記載する表記が用いられる。また、近年では大気寿命の短い炭素の二重結合を含むHFCsが注目されHFOs(Hydrofluoro-olefins)と表記される。

フロンと地球環境

 フロン規制以前の国内でのフロン出荷量を下図に示す。

図 1986年の国内向けフロン出荷量

 1980年代はDRAMを中心として日本の半導体生産が急激に拡大した時期に当たり、半導体の洗浄に使用されるCFC113の消費量が特出して多く、CFC単独で見れば50%を超えていた。モントリオール議定書の締結当時の目標はCFCの半減であり、洗浄に使用したフロンを回収再利用で達成できるとの意見すらあった。その後の議定書の強化により、冷媒用途はオゾン層破壊の無い代替フロンHFCsに、他の用途の大部分はHC等のフロン以外の物質に置き換わった。代替フロンの開発にあたり、フロンメーカはAFEAS(Alternative Fluorocarbons Environmental Acceptability Study )を結成し、代替物質の開発、環境特性の評価を行っている。また、冷凍機器メーカも代替冷媒評価プログラムを結成し国際協力で機器の開発を行った。代替フロンは塩素を含まないために、潤滑油として使用していた鉱油との相溶性がなく、新たな合成油の開発、非共沸混合冷媒に適した熱交換器、冷凍サイクルなど多くの見直しが行われ、代替フロンの製品化に加え、冷凍サイクルの効率向上にも大きく貢献した。しかし、代替フロンHFCsも温室効果が大きく、京都議定書では排出規制対象になっている。京都議定書はモントリオール議定書の対象物質を含めないために、京都議定書のみを見れば代替冷媒としてHFCsの排出量が増加している。しかし、1987年の出荷量のその他のフロンを除いた温室効果は二酸化炭素換算で9.5億トンに相当し、京都議定書の基準年である1990年の温室効果ガス排出量12.7億tンの75%に相当する。2013年のHFCsの排出量は0.32億トンと温室効果ガスとしても大幅に削減されている。モントリオール議定書はオゾン層破壊物質の削減に加え温室効果ガス削減に大きく貢献している。

 世界的に見たフロンの生産量の推移を下図に示す。データはAFEASの2009年の統計データで、含まれるフロンはCFC11、12、113、114、115、HCFC22、124、141b、142b、HFC134a、125、143aである。

図 フロンの生産量の推移(AFEAS2009年)

 フロンの生産量は1988年がピークで129万トン、温室効果として二酸化炭素換算で81億トンにも達していた。モントリオール議定書により、1989年以降急激にCFCsの生産量が減少し、HCFCs、HFCsが増加している。HCFCsの増加はCFCsの代替として一時的に使用されたもので、今後HFCsあるいは他の物質に置き換えられる。しかし、2007年でも44万トンの生産量があり、温室効果として8億トンとピーク時からは大幅に削減されたが、さらなる削減が求められている。

フロンによる温暖化防止

 京都議定書は基本的には放出規制であり、冷凍装置に封入されているフロンは単に熱媒体として作動するのみで、漏えい防止、回収を行えば大気への放出は防止できる。このために、国内では業務用冷凍空調機器を対象としてフロン回収破壊法、家庭用では家電リサイクル法でフロンの回収が義務付けられた。しかし、機器からの冷媒漏えい量が想定以上であり、HFCsの排出量が増加していることから、2015年にフロン回収破壊法の名称が「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)」に改められ、フロン回収に加え、漏えい防止が強化された。 さらに、フロン排出抑制法ではより小さいGWPの冷媒への転換が求められている。最近注目されている低GWPのフロンを下表に示す。

表 低GWPフロン

  HFC32 HFO1234yf HFO1234ze(E) HFO1123 R410A
沸点(℃) -51.7 -29.5 -19.0 -56 -51.4
臨界温度(℃) 78.1 94.7 109.4 58.7 71.4
爆発限界(vol%) 13.8-29.91) 6.2-12.31) 7.0-9.51) 10.4-29.32) -
大気寿命(y) 5.23) 10.5days3) 16.4days3) 1.6days2) -
GWP(20-years) 24303) 13) 43)   42703)
GWP(100-years) 6773) <13) <13) 0.32) 19243)
    1)フロオロカーボン協会安全データシート(2015) 
    2)Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 65(2015)
    3)IPCC(2013)

 GWPを小さくするためには、大気中の水酸基ラジカル(OH)との反応を促進し、大気寿命を短くする必要がある。このために水素原子の比率が多いHFC32、あるいは二重結合を有するオレフィン系のフロンHFO1234yf、HFO1234ze、HFO1123が注目されている。オレフィン系のフロンは大気寿命が数日~数十日と他のフロンに比べ著しく短く、GWPも二酸化炭素と同等以下になっている。しかし、水素原子が多くなり可燃性、熱安定性の課題が生じる。

 HFC32はもともと設置型空調機の冷媒として使用されていたHCFC22の候補として挙げられていたが、弱燃牲で、不燃にするためにHFC125と混合しR410Aが開発された。また、R407CはさらにHFC134aを混合し、HCFC22と同等の動作圧力に近づけたものである。HFC32はすでにルームエアコンの冷媒として使用されている。HFO1234yfはカーエアコン用冷媒HFC134aの代替として欧州を中心として開発がすすめられている。HFO1234zeは、冷媒としては研究段階であるがエアゾールとして一部商品化されている。HFO1123はHFC32との混合でR410Aの代替として提案されているが、低臨界点、熱安定性、可燃性の課題がある。